
マインドフルネスの今問題になっているところ
マインドフルネスは仏教の瞑想から来たものであり、ベースにあるのは仏教ですが、いま流行りのマインドフルネスはアメリカから入ってきたもので、特に日本における実情は複雑な流れがあると言われています。全体像をわかっていないために自分がどういうマインドフルネスを求めているのか、あるいはマインドフルネスがどういうものなのかよくわからないまま始めてしまう場合があるようです。瞑想難民という言葉があるように、始めてみたもののなんだか今ひとつだなあと感じている人がいるかもしれません。
そこで、マインドフルネスの歴史に触れながら、その大まかな全体像と問題点について書いてみます。
医療からの流れ
マインドフルネスという言葉が世間一般に広がったのには、アメリカ人医師のジョン・カバットジンが与えた影響が大きいと言われています。
ミャンマーで仏教の修行をしたカバットジンは、1980年代、治らない肩こりや腰痛などの慢性疼痛に対してマインドフルネスを導入しました。科学的な治療やリハビリテーションなどの運動をするのではなく、マインドフルネスという仏教の瞑想由来のものを導入し、痛みが軽減するという効果が見られました。
その後、医療従事者たちがカバットジンのもとで学ぶようになったことでエビデンスが積み重ねられ、代替療法ではなく科学的根拠があるということで次第にマインドフルネスは広まっていきました。
また、体の痛みだけではなく心の問題にも効くということがわかり、現在では鬱の再発予防にも効果があると言われています。エビデンスがアカデミックな形で評価されるようになり、いくつかの国では保険の適用もされるなど医療制度にも影響を与えるようになりました。
ちなみに日本では30年ほど前にカバットジンの本が出版されたのですが、時代が合わなかったのかそのときは売れず、最近タイトルを変えて同じ内容の書籍が新たに出版されています。
そもそも瞑想から取り入れたものによって痛みが軽減される、と聞くとちょっと怪しい感じがしますよね。しかしそこにエビデンスが加わることによって、科学的な根拠があると認められる形でマインドフルネスは広まっていきました。これが医療業界における流れです。
ビジネスからの流れ
これに対して、ビジネス領域からの流れというのがあります。スティーブ・ジョブズが禅の影響を受けていた話は有名ですね。彼はアイコン的な存在で、マインドフルネスをもう少し具体的に使っていったのがGoogleです。社員研修の中でマインドフルネスを応用し、それによって社員のストレスの軽減や創造性が生まれやすくなるなどの効果が言われています。そこから他の企業も関心を持つようになり現在に至るという流れです。ただしエビデンスに関しては、医療の方で積み重なっているというのが現状のようです。
以上、医療からの流れと、ビジネスからの流れという形でマインドフルネスは広まっていきました。これが一つの流れとしての小さな地図ですが、もう一つ、全く違う次元でマインドフルネスの源流には仏教があります。
マインドフルネスの源流は仏教
仏教の瞑想を取り入れて他の分野に応用するのがマインドフルネスだとすると、その源流である仏教との関係はどうなっているのかという疑問が出てきます。実はここがトリッキーでわかりにくいところなのですが、構図として一方に医療、他方にビジネス、さらに全く違う次元で仏教というふうに3つの柱が立つのではなく、仏教そして医療・ビジネスというふうに大きく二極化します。これがマインドフルネスの大きな地図です。
仏教⬅︎ーーーーーーーーーーーー➡︎医療・ビジネス
無心のマインドフルネス 有心のマインドフルネス
ピュアマインドフルネス 臨床マインドフルネス
悟りを目指す 悟りを目指さない
マインドフルネスという言葉が生まれたのは、1980年代、ジョン・カバットジンが体の慢性的な痛みの軽減を目的として取り入れたことは上に書きました。彼自身はミャンマーに渡り仏教の修行をしていますが、マインドフルネスを導入する際に彼がしたことは、仏教色を排除することでした。これをしたことによって、キリスト教、イスラム教などの宗教を超えて当時のアメリカの人々に受け入れられ、今日のような流れが続いています。一神教の信者にとって、仏教とは全く関係ない誰でもできるメソッドですよという謳い文句は決定的に重要なことでした。
自分がどんなマインドフルネスをやりたいのかを知っておく
ここで注意しなければならないのは、マインドフルネスを始める場合、自分がどんな目的でやるのかをある程度わかっておかないとうまくいかない可能性があるということです。
仏教の修行というものが現世から離れることをよしとして悟りを目指す方向にあるのに対して、医療・ビジネス系のマインドフルネスは悟りを目指しません。例えば企業は社員に悟られて、会社を辞められるなんてことになるとそれは困るわけですよね。ですからこの点に関しては、悟りの方向に行かないように、ある種誰でもできるように周到にメソッド化されています。
要するに医療・ビジネス系のマインドフルネスは、痛みやストレスが減ります、創造力が開発されます、心の耐性がつきますよと言われるように現世利益のための技法としてあるということです。
ただわかりにくいのは、悟らせませんよとまでは明確には言わなかったりする。日本だと、マインドフルネスは仏教から来ていますよ、瞑想なんですよと謳うことによって、悟りのにおいを醸し出しながら、でも悟らせないようにメソッド化されているというのが医療・ビジネス系の戦略でもあるということです。
このように両者は、同じマインドフルネスという言葉を使いながらも中身は違うものだと言うことを特にこれから始めようとする人は知っておいた方がいいと思います。もちろんマインドフルネスをやっていくうちにでもいいと思うのですが、自分がどちら寄りに行きたいのか、そこを意識しておかないとちぐはぐなことになってしまうかなと感じます。